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大阪地方裁判所 昭和32年(わ)681号 判決

本店所在地

大阪市西区九条南通二丁目一六二番地の一

合名会社奥村鉄工所

右代表者代表社員

奥村由雄

本籍

同市同区九条南通一丁目一四二番地

住居

同市同区九条南通二丁目一七二番地の一

会社員

奥村由雄

大正一一年九月三日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官生駒啓出席の上審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告会社奥村鉄工所に対し、判示第一の罪につき罰金四五万円に、判示第二の罪につき罰金三五万円に、被告人奥村由雄に対し、判示第一、第二の各罪につき、それぞれ罰金一〇万円に、

各処する。

被告人奥村由雄に対し、右罰金を完納できないときは金一、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告会社奥村鉄工所と被告人奥村由雄の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社は、肩書本店所在地に本店を置き、精米機の製造販売等を目的とする合名会社であり、被告人奥村由雄は、同会社の代表社員で同会社の業務を統括しているものであるが、被告人奥村由雄は被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て

第一、昭和二八年三月一日から同二九年二月二八日までの被告会社第七期事業年度(以下単に第七期という)における所得金額が五、八八四、八四七円で、その法人税額が二、四七一、六一〇円であつたにもかゝわらず、二重帳簿を作成する等の不正手段により所得の一部を秘匿した上、同年四月三〇日所轄西税務署長に対し、所得金額は六六二、九九九円で法人税額は二七八、四一八円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、よつて不正の行為により前記正当な法人税額から右申告税額を控除した差額法人税額二、一九三、一九二円を免れ

第二、昭和二九年三月一日から同三〇年二月二八日までの被告会社第八期事業年度(以下単に第八期という)における所得金額が六、六三一、九九一円で、その法人税額が二、七八五、三九〇円であつたにもかゝわらず、二重帳簿を作成する等の不正手段により所得の一部を秘匿した上、同年四月三〇日前記西税務署長に対し、所得金額は二、一一八、六九〇円で法人税額は八八九、八一〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、よつて不正の行為により前記正当な法人税額から右申告税額を控除した差額法人税額一、八九五、五八〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一、合名会社奥村鉄工所定款

一、同会社登記簿謄本

一、大蔵事務官三木賢一郎作成の証明書(被告会社の自昭和二八年三月一日至同二九年二月二八日事業年度法人税額確定申告書写)

一、同人作成の証明書(被告会社の自同二九年三月一日至同三〇年二月二八日事業年度法人税額確定申告書写)

一、第一四回公判調書中証人田中日吉の供述部分(二重帳簿作成事実について)

一、高田綾子の検察官に対する供述調書(前同)

一、被告人の大蔵事務官に対する各質問てん末書(一四通)及び検察官に対する各供述調書(六通)

所得の計算について

1  現金、預金

一、証人奥村キイの当公判廷における供述(第四二回公判)

一、第九、第一一、第一三、第三三回公判調書中証人奥村キイの各供述部分

一、奥村キイの検察官に対する各供述調書(三通)

一、押収にかゝる預金調査報告書六通(昭和三三年押第四〇号の二四)

一、押収にかゝる総勘定元帳五冊(同号の二五)、銀行帳三冊(同号の二六)(以上預金について)

2  受取小切手

一、前記預金調査報告書中三和銀行九条支店分(同号の二四の一)

一、押収にかゝる代金取立手形受託通帳五冊(同号の二)

3  受取手形

一、押収にかゝる売掛帳一冊(同号の七、一〇〇、一五〇頁)、同一冊(同号の二八、六九、一六〇頁)、代手受託通帳一冊(同号の二九、四頁)

4  売掛金、前受金

一、押収にかゝる売上高、売掛金明細表一通(前同号の三八)

一、押収にかゝる売掛元帖一冊(同号の三〇、公表帳簿)、大蔵事務官黒川正義作成の証明書一通(法人税更正決議書写、同号の三三の一)

5  有価証券

一、前記銀行調査報告書中富士銀行九条支店分(前同号の二四の二、一二枚目)

一、被告人作成の昭和三一年五月一七日付確認書

6  棚卸資産

一、押収にかゝる製品、判製品出入帳一冊(前同号の三)、製品払出帳三冊(同号の四ないし六)、売掛帳二冊(同号の一、七)、売上日記帳二冊(同号の九、一〇)、仕入帳三冊(同号の二七、三一、三二)、大阪鋳工所関係雑記帳一冊(同号の四一)

一、株式会社大阪鋳工所売上帳写

一、被告人作成の各期棚卸計算書中の製品受払明細(二丁)、返品受入明細表(三丁)、二九年二月期製品価格算出表(五丁)、三〇年二月期製品価格算出表(六丁)、各月別製品払出表(九丁ないし四七丁)、製品半製品材料受払明細(四八丁ないし五一丁)、鋳物材料内訳表(五二丁ないし五六丁)、荷造材料使用高表(五九丁)、販売部品使用材料表(四丁)、半製品受払明細(七丁)、半製品価格算出表(八丁)

一、昭和三一年四月二一日現在部品棚卸表

一、大蔵事務官中堀弘作成の同三一年四月二五日付確認書(昭和三一年二月七日現在鋳物材料実施棚卸表)

一、大蔵事務官松井達、同中堀弘作成の「鋳物材料在庫高計算」と題する書面

一、昭和三〇年二月期原価計算書

一、第二〇、第二一回公判調書中証人渡辺克三の各供述部分

一、第二二回公判調書中証人鉾木堅之助の供述部分

一、第二六回公判調書中証人岩田貞次郎の供述部分

一、第一八、第一九回公判調書証人河野進の各供述部分

一、河野進の検察官に対する供述調書

一、鑑定人栗木繁作成の鑑定報告書

一、同人の当公判廷における供述

一、第二七回(昭和四四年一二月一日)公判準備手続調書中同人の供述部分

一、被告人の当公判廷における供述

7  架空買掛金

一、押収にかゝる仕入帳一冊(前同号の二七)

一、菅沼照夫の大蔵事務官に対する質問てん末書及び検察官に対する供述調書

一、川村正雄作成の供述書

一、橋本光博の検察官に対する供述調書

一、竹安猪三郎作成の確認書

8  架空支払手形

一、押収にかゝる仕入帳一冊(前同号の三一)、総勘定元帳二冊(同号の三四(九六頁)、同号の二五の一(八一、七二、一八九頁)

一、第一八回公判調書中証人河野進の供述部分

一、株式会社大阪鋳工所売上帳写

一、第一七回公判調書中被告人の供述部分

以上1ないし5、7、8について

一、第三五、第三六回公判調書及び第一九回(昭和四二年五月一一日)公判準備手続調書中証人松井達の各供述部分

9  税務計算上修正すべき金額

一、押収にかゝる大蔵事務官黒川正義作成の証明書二通(法人税更正決議書写二通、前同号の三三の一、二)

一、押収にかゝる資産台帳一冊(同号の四〇)(減価償却について)

一、大蔵事務官芝本正春作成の証明書一通(法人税更正、決定決議書写三通)

一、第二〇回(同四二年六月一三日)、第二一回(同年九月七日)公判準備手続調書中証人宮下藤繁の各供述部分

一、第一〇回公判調書中証人大島米吉の供述部分(役員賞与)(所得金額算定の理由)

前掲各証拠を総合すると、被告会社の第七、第八期の申告外(簿外)所得は、次表に示すとおり、第七期五、二二一、八四八円、第八期四、五一三、三〇一円であると認めることができる。

一、第七期

当期々首に存在した

金額で、当期々末金額より控除すべき金額

当期々末金額

当期増減額(△は減)

(一)、資産

現金

三、三〇〇、〇〇〇

二、六〇〇、〇〇〇

△七〇〇、〇〇〇

受取小切手

定期預金

四、八〇〇、〇〇〇

七、四〇〇、〇〇〇

二、六〇〇、〇〇〇

普通預金

二、六九三、〇二一

一〇、三七一、九四五

七、六七八、九二四

売掛金

二、七〇二、一三六

二、〇〇二、〇二四

△七〇〇、一一二

有価証券

一〇、〇〇〇

一〇、〇〇〇

棚卸資産

一一、八〇七、一七一

八、七二三、六七一

△三、〇八三、五〇〇

架空支払手形

四〇〇、〇〇〇

四〇〇、〇〇〇

(二)、負債

前受金

△九五、七七〇

二六、九一五

一二二、六八五

その他税務計算上当期所得に加除すべき金額

(加算)

損金計上諸税 四、九五〇

(除算)

減価償却不足額 △一四、八五九

未納利子税 △二五、二一〇

未納事業税 △七七五、六六〇

前期否認金当期認容額 △四〇、〇〇〇

(四)、当期簿外所得 五、二二一、八四八

二、第八期

当期々首に存在した

金額で当期々末金額より控除すべき金額

当期々末金額

当期増減額

(一)、資産

現金

二、四九五、五〇〇

三、〇〇〇、〇〇〇

五〇四、五〇〇

受取小切手

五五、四〇〇

五五、四〇〇

定期預金

七、四〇〇、〇〇〇

八、四〇〇、〇〇〇

一、〇〇〇、〇〇〇

普通預金

一〇、三七一、九四五

一五、三七五、四五九

五、〇〇三、五一四

受取手形

三六〇、五〇〇

三六〇、五〇〇

売掛金

二、〇〇二、〇二四

二、八九九、二五五

八九七、二三一

有価証券

一〇、〇〇〇

一〇、〇〇〇

棚卸資産

八、六二七、五一一

五、一八五、三六五

△三、四四二、一四六

架空支払手形

架空買掛金

五六五、八〇〇

五六五、八〇〇

(二)、負債

前受金

二六、九一五

二、〇四五

△二四、八七〇

(三)、その他税務計算上当期所得に加除すべき金額

(加算)

損金計上諸税 二七、〇四〇

役員賞与 二五、〇〇〇

(除算)

減価償却不足額 △ 一、七九四

仮払金未収利息当期認容額 △ 二一、一四四

未納事業税 △ 四八五、四七〇

(四)、当期簿外所得 四、五一三、三〇一

以下前記各勘定科目について必要と考えられる限度で若干の説明を付加する。

一、現金について、

奥村キイの各検察官調書中の供述記載中、第八期々末現金残高について、メモ記載金額三〇〇万円に手提金庫内の現金五〇万円を加えて金三五〇万円であるとする点は、同人の昭和三二年四月一五日付検察官調書中の、メモを記載するときには手提金庫内の現金は残つていなかつたと思う旨の供述記載と矛盾し、右五〇万円を加算する限度で信用することができないが、その余の点については、同人の各検察官調書中の供述記載を全て信用することができ、同人の当公判廷における供述中右に反する部分は信用することができない。そこで、同人が検察官調書中で供述する金額を、右信用しない点を除いて採用し、第七期々首三三〇万円、同期末二六〇万円、第八期々末三〇〇万円と認定した。

なお、第八期簿外所得の計算上、期末金額より控除すべき期首金額は、右第七期々末金額より、被告会社において前期(第七期)否認分を本勘定に算入した一〇四、五〇〇円を控除し、二、四九五、五〇〇円となる。

二、受取小切手について

1  第七期分について

検察官主張の第七期々末における受取小切手一一通(犯則所得算出明細書第一、一、4記載)については、当裁判所において「売上高、売掛金明細表」(前同号の三八)を検討した結果、その原因たる各売上が第七期々末売掛金残高として帳簿に計上されていることが判明し、これらは売掛金勘定で処理するのが妥当であると考えられるので、簿外受取小切手としては計上しなかつた。

2  第八期分について

前掲証拠によると、被告会社は、次表記載のとおり、代金支払小切手四通を第八期々中に受取り、これらを三和銀行九条支店に取立依頼し、右小切手金は第八期決算日後に同支店当座預金口座に入金となり、したがつて、第八期々末において右小切手金額計五五、四〇〇円が存在したにもかゝわらず、これを第八期の申告所得に計上していないことが認められる。

受取小切手

取立依頼日

入金日

(金額)

(振出人)

(昭和年月日)

(同上)

二六、九〇〇

石部工作所

三〇、二、二六

三〇、三、三

九、五〇〇

坂本農機

〃 一、二七

〃 四、五

清水造船

〃 二、二一

〃 〃一三

菅下商店

〃 〃 一二

〃 三、三

三、定期預金、普通預金について

前掲証拠によると、被告会社の簿外資産として次表のとおりの定期預金、普通預金が存在したことを認めることができる。

第七期々首

第七期々末

第八期々首

第八期々末

定期預金

三和銀行九条支店分

一、〇〇〇、〇〇〇

五〇〇、〇〇〇

五〇〇、〇〇〇

同 行桜川支店分

二、〇〇〇、〇〇〇

二、〇〇〇、〇〇〇

二、〇〇〇、〇〇〇

同 行本田支店分

一、八〇〇、〇〇〇

三、八〇〇、〇〇〇

三、八〇〇、〇〇〇

富士銀行九条支店分

一、一〇〇、〇〇〇

一、一〇〇、〇〇〇

住友銀行川口支店分

一、〇〇〇、〇〇〇

四、八〇〇、〇〇〇

七、四〇〇、〇〇〇

八、四〇〇、〇〇〇

普通預金

三和銀行九条支店分

一、八一二、一七一

八、九四〇、九〇七

一三、九一六、四二六

富士銀行本田支店分

八八〇、八五〇

一、四三一、〇三八

一、四五九、〇三三

二、六九三、〇二一

一〇、三七一、九四五

一五、三七五、四五九

四、受取手形について

前掲証拠によると、被告会社は、昭和三〇年二月五日に(イ)金額一四六、〇〇〇円、振出人田中農機具店、支払期日同年四月三日、(ロ)金額一七〇、〇〇〇円、振出人同店、支払期日同月二五日なる約束手形二通を受け取り、また同年二月一一日に(ハ)金額四四、五〇〇円、振出人水井農機、支払期日同年五月一〇日なる約束手形を受取りながら、いずれも第八期の決算期後((イ)、(ロ)は同年三月一二日、(ハ)は同月一一日)に受取つたように公表帳簿に記入し、右手形金額を第八期申告所得に計上しなかつたことが認められる。

五、売掛金について

申告外売掛金は、前掲証拠によつて認められる実際総売掛金より申告金額を控除することにより、次表のとおり計算することができる。

第六期々末

第七期々末

第八期々末

実際総売掛金(イ)

三、五一七、二〇〇

四、〇五六、九五八

四、一三四、〇八五

申告額(ロ)

七二八、二六四

二、〇五四、九三四

一、二三四、八三〇

申告外売掛金

(イよりロを控除)

二、七八八、九三六

二、〇〇二、〇二四

二、八九九、二五五

なお、第七期の申告外所得の計算上期末金額より控除すべき期首金額は、右第六期々末金額より被告会社において前期(第六期)否認分を本勘定に算入した八六、八〇〇円を控除し、二、七〇二、一三六円となる。

六、有価証券について

前掲証拠によると、被告会社は簿外資産として、第七期々末より第八期々末までの間引続き富士銀行株券百株券(一株五〇円)二枚(計一万円)を所有していたことが認められる。

七、棚卸資産(期末在庫)について

(一)、申告と簿外を含む実際各期末在庫金額について

右金額は、前掲各証拠を綜合して別表(1)記載のとおり認定することができるが、以下右認定理由について若干の説明を付加することゝする。

1 製品、半製品について

被告会社の帳簿を含め前掲各証拠を検討した結果鑑定人栗木繁の鑑定結果を正確なものと認定して、これを採用した。

2 鋳物材料について

前掲各証拠によると、昭和三一年二月七日頃被告会社において鋳物の実地棚卸が行なわれ、これによると、同日現在の鋳物在庫量は六、七三三貫九〇二であることが認められる。これを基礎として、期中総使用量、期中仕入量を算定の上、別表(2)記載のとおり、各期末、期首の在庫高を順次逆算した。

なお、総使用量の算定については、第七、第八期中の各使用量につき前記栗木鑑定の結果を他の証拠と対照検討の上正確なものと認定して採用し、昭和三〇年三月一日から同三一年二月七日までの使用量については、右鑑定結果からは明らかにできないので、大蔵事務官松井達、同中堀弘作成の「鋳物材料在庫高計算」と題する書面記載の数量を採用した(ちなみに、右期間中の使用量は結果的に本件犯則所得金額を左右しないものである。)。期中仕入量については、公表帳簿記載分につき右「鋳物材料在庫高計算」に記載の数量を他の証拠と合わせ検討の上正確なものと認定して採用し、簿外仕入分については、被告会社の公表仕入帳(前同号の三二)と大阪鋳工所関係雑記帳(同号の四一、右は、証人渡辺克三の当公判廷における供述によると、同人が昭和二九年一〇月一日以降の入荷数量をその都度記帳したものと認められる。)とを詳細につき合して検討した結果同日以降同三〇年二月末日までの間に約七七〇貫の簿外仕入があつたものと認定した。

ところで、前記算定によれば被告会社における鋳物在庫量は逐年減少するという結果になるところ、検察官は、「このような算定結果は、被告会社において逐年生産量が増大しているという実情にそぐわないものであり、鋳物在庫量は生産量の増大に伴い、逐年増加しているのである。被告会社における簿外仕入量を確定する資料がないため右増加量を計算することができないが、少なくとも第七期々首より昭和三一年二月七日までの間において逐年鋳物在庫量が減少したことのなかつたことは本件証拠上明らかであるから最も被告会社に有利に計算しても、右昭和三一年二月七日現在の在庫量六、四三八貫をもつて右期間中の各期首、期末の在庫量とすべきである。」旨を主張する(昭和四四年一月二八日付書面)

右検察官の主張に副う証拠としては、証人田中日吉、同渡辺克三の当公判廷における各供述、河野進の検察官調書、被告人の大蔵事務官に対する第六、七回質問てん末書中の各供述記載等があり、これらを綜合すれば右検察官の主張を首肯できるかのように考えられないでもない。

しかし、右証人田中、同渡辺の各供述は、帳簿等の記録に裏付られたものではなく、事柄の性質上その記憶の正確性について疑いをさしはさむ余地も大きく、直ちにこれを信用することが難かしい。

そして、別表(2)記載の各数量のうち、各公表仕入量、総使用量については本件証拠上ほゞ動かし難いものと考えられるので、検察官主張のように第七、第八期の各期首と各期末との間に在庫量の減少がないとするためには、第七期々中に約四、〇〇〇貫、第八期中に約三、六〇〇貫の簿外仕入があつたものとして辻棲を合せるよりほかないのであるが、右簿外仕入については、前記認定のとおり昭和二九年一〇月一日から同三〇年二月末日までの五ヶ月間に約七七〇貫が認められるのみで、本件証拠上は右以上の簿外仕入を数量的に把握できる資料はない(河野進の検察官調書には右期間中の簿外仕入を約一、三八二貫とする供述記載があるが、前記当裁判所の同じ資料に基づく算定結果と符合せず、信用できない。また前記被告人の質問てん末書中の供述記載もその内容自体及び被告人の検察官調書中の供述記載、当公判廷の供述に照して正確な記憶に基づくものとは考えられず、信用しがたい。)。もつとも、右期間中に約七七〇貫の簿外仕入があつた事実は、第七、第八期中に更に相当量の簿外仕入があつたことを一応推認させるのであるが、期間と数量の割合から考えても、前記のような第七期中に約四、〇〇〇貫以上、第八期中に約三、六〇〇貫以上の簿外仕入があつたことを推認することはできず、むしろこれをかなり下廻る公算が大きいのである。

また、被告会社における製品、砲金等の期末在庫量が第七期に比して第八期が減少している事実に照しても、被告会社における生産量が逐年増加しているからといつて、必ずしも鋳物の期末在庫量がこれに従い逐年増加するものとは推認しがたい。

以上のような理由で、前記検察官の主張(論告において主張するいわゆるトントン方式)は本件について採用することができず、別表(2)の当裁判所の算定が必ずしも被告会社の鋳物在庫量を正確に把握した結果であるとは言いがたいとしても、本件証拠上右以上に棚卸資産の期中増加を算定しうる証拠がないといわねばならないので、これをもつて本件犯則所得算出の基礎とするほかはない。

而して、別表(2)記載の各期末在庫量に貫当り単価(被告会社申告にかゝる最終仕入原価法に従い、昭和二八年二月末は二一〇円、同二九年二月末及び同三〇年二月末は各二〇〇円と認定した。)を掛合せ、別表(1)記載のとおり各期末、期首在庫金額を算出した。

3 砲金鋳物について

前掲証拠によつて認められる昭和三一年四月二一日現在の実地棚卸数量一五〇貫七六〇を基礎とし、当裁判所において期中仕入数量を仕入帳三冊(前同号の二七、三一、三二)の記載より正確に算定し、期中使用量は前記栗木鑑定の結果を正確なものと認定して採用し、これらを順次加除して別表(3)記載のとおり各期末、期首在庫量を逆算し、これに貫当り単価(昭和二八年二月末及び同二九年二月末は各一、四〇〇円、同三〇年二月末は一、二五〇円)を掛合せて、別表(1)記載のとおり各期末、期首在庫金額を算出した。

4 その他の材料について

被告人作成の「製品半製品材料受払明細」及び「荷造材料使用高表」記載の数量、金額を正確なものと認定して採用し、別表(1)のとおり算出した。

(二)、別表(1)記載の実際各期末在庫金額より申告額を控除することにより、次表記載のとおり簿外各期末在庫金額を算出した。

第六期末

第七期末

第八期末

実際期末在庫

一二、八二〇、〇四八

九、八七七、三〇三

六、四〇三、五三四

申告額

七四一、四七六

一、一五三、六三二

一、二一八、一六九

簿外期末在庫

一二、〇七八、五七二

八、七二三、六七一

五、一八五、三六五

なお、第七、第八期の簿外所得の計算上、各期末金額より控除すべき期首金額は、その各前期々末金額より、被告会社において前期否認分を本勘定に算入した第七期につき二七一、四〇一円、第八期につき九六、一六〇円をそれぞれ控除し、第七期は一一、八〇七、一七一円、第八期は八、六二七、五一一円となる。

八、架空支払手形について

前掲証拠によると、被告会社は、昭和二九年二月初め頃鋳物材料の仕入先である大阪鋳工所に対しすでに現金で支払いずみの代金四〇万円につき架空の支払手形(金額四〇万円、振出日昭和二九年二月四日、支払期日同年四月三〇日)を交付した上、その旨公表帳簿に記入し、第七期において四〇万円の架空支払手形を計上申告したことが認められる。

九、架空買掛金について

前掲証拠によると、被告会社は、

(1)、実際には第八期の決算期後である昭和三〇年三月八日銭屋アルミ製作所より仕入れたぬか箱三六六個(代金二一万円)の仕入につき、同年二月一四日に仕入れたように公表帳簿に記入し、

(2)、実際には同二九年五、六月頃に仕入れて、すでに簿外の現金で代金を支払いずみの鉄板三口((イ)、一〇万円、(ロ)、一五万円、(ハ)一〇五、八〇〇円)の仕入につき、(イ)(ロ)は同三〇年二月一四日朝日商会より、(ハ)は同月八日旭鋼材よりそれぞれ仕入れたように公表帳簿に記入し、

それぞれ仕入れたように公表帳簿に記入し、

それぞれ第八期において架空買掛金を計上申告したことが認められる。

一〇、前受金について

簿外前受金は、前掲証拠によつて認められる実際前受金より申告額を控除することにより、次表のとおり計算することができる。

第六期々末

第七期々末

第八期々首

第八期々末

実際前受金

六八、二〇〇

五一、四三五

二四、三九五

申告額

一六三、九七〇

二四、五二〇

二二、三五〇

簿外前受金

△ 九五、七七〇

二六、九一五

二、〇四五

一一、税務計算上当期所得に加除すべきもの

(一)、加算すべきもの

(1)、損金計上諸税(第七、第八期)

右は、本来法人税法上損金不算入の諸税を被告会社において損金に算入したまゝ申告所得を計算していたものであり、第七期の四、九五〇円は源泉徴収延滞加算金四、二五〇円及び延滞加算金七〇〇円の合計であり、第八期の二七、〇四〇円は事業税延滞加算金である。

(2)、役員賞与(第八期)

(1)同様損金不算入の役員賞与(代表社員奥村由雄、同大島米吉に対する各二五、〇〇〇円)中二五、〇〇〇円を被告会社において損金に計上したまゝ申告所得を計算していたものである。

(二)、減算すべきもの

(1)、減価償却不足額(第七、第八期)

右は、被告会社の簿外機械設備(取得価格一五三、〇〇〇円)についての減価償却額であり、その計算は、耐用年数を二〇年とし、被告会社申告の定率法(償却率〇・一〇九)に従い行つた(なお右減価償却は第六期より行なわれ、第七期々首価格は一三六、三二三円である。)

(2)、仮払金末収利息(第八期)

右は、役員に対する仮払金一六九、三四〇円の未収利息を被告会社において益金に計上したものであるが、右仮払金自体の存在が疑わしいので、その利息も発生しなかつたものと考え、減算するものである(なお第八期における右仮払金自体も抹消すべきものであるが、これは前期更正で否認されたのを本勘定に算入、申告したものであつて、これを抹消すれば、一方前期否認金当期認容額をもそれだけ減算することになり、結局当期所得金額に消長を及ぼさないことになるから、本件においては取りあげない。)

(3)、前期否認金当期認容額(第七期)

右は、前期(第六期)更正で売掛金八六、八〇〇円が否認され、これを被告会社において本勘定に算入しながら、第七期申告における積立金の計算で売掛金前期否認金当期認容額として四六、八〇〇円しか計上していないので、右差額四〇、〇〇〇円を計上漏れとして減算するものである。

(4)、未納利子税(第七期)

第七期の利子税に関しては、本来当期確定の未納利子税三一、八二〇円を減算し、被告会社において損金計上(認容)済の二七、六七〇円を加算すべきところ、申告においては損金計上分として二一、〇六〇円を加算しているのみであるので、申告所得より差引二五、二一〇円を減算して修正しなければならない。

(5)、未納事業税(第七、第八期)

(第七期について)

前期(第六期)所得金額七、五九〇、九〇〇円に対する事業税九一〇、九〇〇円より被告会社において未払金に計上済みの一三五、二四〇円を控除した七七五、六六〇円を申告所得より減算することになる。

(第八期について)

前期(第七期)所得金五、八八四、八四七円に対する事業税七〇六、一七六円より、期中納付額一九八、三四〇円及び損金引当金二二、三六〇円を控除した四八五、四七〇円を未納事業税として申告所得より減算することになる。

以上の次第で、被告会社の第七、第八期各所得金額は、前記各簿外所得金額に各申告金額を加算して次表のとおり計算することができる。

簿外所得金額

申告金額

総所得金額

第七期

五、二二一、八四八

六六二、九九九

五、八八四、八四七

第八期

四、五一三、三〇一

二、一一八、六九〇

六、六三一、九九一

(法令の適用)

被告人奥村由雄の判示各所為は昭和四〇年法律第三四号法人税法附則一九条により改正前の法人税法(昭和二二年法律第二八号)四八条一項に各該当するところ、いずれも所定刑中罰金刑を選択し、被告会社についてはその代表社員たる被告人奥村由雄が会社の業務に関して前記法人税法四八条一項の違反行為をなしたものであるから同法五一条により判示各事実につきそれぞれ同法四八条一項所定の罰金刑を科すべきところ、同法五三条により被告人奥村由雄及び被告会社に対する判示各罪についての各罰金刑はいずれもこれを併科することゝし、所定金額の範囲内で、被告会社に対し判示第一の罪につき罰金四五万円に、判示第二の罪につき罰金三五万円に、被告人奥村由雄に対し、判示各罪につきそれぞれ罰金一〇万円に、各処することゝし、被告人奥村由雄に対し、刑法一八条により、同被告人において右罰金を完納できないときは金一、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することゝし、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文により被告会社と被告人奥村由雄の負担とすることゝする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松浦秀寿 裁判官 黒田直行 裁判官 中根勝士)

別表(1) 実際各期末在庫金額明細表

〈省略〉

別表(2) 鋳物在庫量算出明細表

〈省略〉

別表(3) 砲金在庫量算出明細表

〈省略〉

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